そして今までとは逆の左の非荷重を起こしたので、左の腹腔下部がやや膨張してきます。
すると下行結腸もやや膨張します。
重力の作用が強調され、腸管内の内容物の落下速度が速くなり、十分に吸収されず排泄過程をとりますので、結果下痢を起こします。
このまま時間が経過すると、腸管自体が内容物の通過速度を調整し始めるので、次の段階では便秘傾向を取るようになります。
この系のスパイラルにはまると、なかなか正常な排便サイクルに整復するには時間がかかることが多いように思います。
そうなると身体は全体の重心のバランスを取るために、右側に体液移動をします。心臓自体は中央にありますが、心先部は左側に向いています。
先端部に液圧がかからなければ、ポンプの役目を十分に果たすことができなくなり、空打ち現象をつくってしまうことになります。
マラソン選手などが、ロードを全力で走ってトラックに戻ってきて、最後のスパートをかけたときに突然死をする例が過去にありました。
これがまさに心臓を限界まで使ったところに、空打ちによるキャビテーションで心臓麻痺を起こした例です。
この選手も、オーバーワーク気味かなと思う時には、きまって脈の乱れを感じるとも話しています。
しかしこのような危うい状態でも、なんとかバランスを保ってトレーニングを行っていました。
本来なら身体の事を考えて処置をして、全てを生理的にバランスさせたいのですが、まだ現役で来年も箱根のレギュラーを目指していますので、それを考慮した形で処置をしました。
歩行は必ず片足が地面に付いて移動しますが、走は両足が必ず浮く瞬間があり、後ろ足で蹴って前に推進し前足で着地することを繰り返します。
すると、もともと回転運動の恥骨クランクは、強力な縦のせん断破壊応力を受けます。
本人に現状を理解し承諾をしてもらい、骨盤輪が致命的な応力を受けないよう注意をしながら元の左荷重、右非荷重に矯正し、下腿部と臀部の筋肉の調和をとり、関節を破壊しないようけん引力をかけないように注意しながら、筋肉のストレッチをすることを指示をしました。
今回の事例では、長年かけて作り上げてきた競技のための身体さえも、たった一度の尻もちで、全てのバランスが崩れてしまうという、外力の影響の大きさに驚いたと同時に、改めて、スポーツ選手の体調管理の難しさを感じました。
体を育む事(体育)は、本来体を作り上げていくものですので治療行為は必要ない運動であるはずです。
でもスポーツは、確かに身体を鍛え上げはしますが、治療行為が必要になる非生理的運動です。
治療家として今回の処置は正しかったのか。
いつもスポーツ選手の相談を受けると考えさせられる事の一つです。
臨床家の皆さんはどのように対処されているのでしょうか。
完