Static parameters
hdで示される横隔膜の高さ(高hd値は横隔膜膨張を意味する)は、被験者群間、両条件で有意差が検出された( S 1 :
p=0.001,S2:p=0.003)。このパラメータは姿位に依存せず、S1,S2で類似する結果が得られた。このパラメータは胸郭
の前後径サイズにより標準化された。
また、このパラメータは被験者の疼痛の度合への依存性が示された。
横隔膜下部の傾斜(deca)では、被験者群間に両条件で有意差がみられた(S1:p=0.0005,S2:p=0.02)。
条件間では有意差はみられず、統計学的に同様であった(p=0.27)。
傾斜の平均値は、異常群S1で23.8°、S2で15°であり、コントロール群ではよりverticalな位置であった。
胸腔における横隔膜の高さ(hd)では、被験者群間で顕著な有意差が検出された(p<10-10)。
コントロール群では両条件でバックマーカー下部に維持しており、S1で2.9Cm、S2で3.5Cmであった。横隔膜は平均0.6Cm下降し、SDも比較的小さい値であった。
異常群ではS1でバックマーカー上部平均6.4Cmであり、S2でバックマーカー上部5.1Cmであった。
平均差異は1.3Cmで、有意差はみられなかった(p=0.15)。
Correlation between pain intensity (VAS), pain duration and measured parameters
被験者の腰痛の度合と計測値との間では、S2でhdのみの相関が検出された(p=0.045)。
横隔膜運動調和性、運動域と疼痛度合との間での相関は検出されなかった。
Discussions
・横隔膜運動を調べるためのMRI使用は、呼吸器疾患などに関する先行研究でも使用されており、その有用性は証明されている。
・本研究で使用した横隔膜の傾斜や調和性などのパラメータは他の先行研究でも使用されている。
・横隔膜の部位による可動域の相違(全部、後部)は先行研究でも報告されており、本研究結果を支持するものである。
・本研究では慢性腰痛を有する被験者群であり、我々は、筋群の異常が脊柱へのオーバーロードをきたし、被験者にみられたような脊柱退行性変性の何らかの原因となる可能性を推察する。
・横隔膜の呼吸、呼吸外運動を調べるためのdif-curveの採用は、EMGを使用した先行研究でも用いられている。
・横隔膜運動の調和性の変化と腰痛との関連、腹圧低下と腰痛との関連は先行研究で報告されている。
・異常群被験者は肋骨を下位に維持するための腹筋群機能が低下し、そのために横隔膜停止部の安定が失われ、横隔膜活動に変化を生じる。
このことが呼吸の問題や腹圧変化に起因すると考える。従って、脊柱の安定性が低下し、腰痛、脊柱退行性変性、椎間板ヘルニアなどを発症しやすくなると考える。
Conclusions and future works
本研究では、健常被験者群と外傷歴の無い脊柱構造異常を有する被験者群の横隔膜運動を比較したものである。
この中で、脊柱の固着と呼吸による横隔膜への影響が発見された。
コントロール群の横隔膜運動域の増加と呼吸頻度の低下を検出した。
また、横隔膜のより良い運動調和性も検出された。
姿位、呼吸要素もまたよりバランスが取れていた。
これは、脊柱を前からサポートする上での腹圧の安定に大変重要であり、腰痛、椎間板ヘルニアなどの治療の一つの要素となるであろう。
我々は、コントロール群における吸気時及び下肢負荷時のより低い横隔膜の位置を検出した。
これらの結果は、横隔膜が体幹の安定性を維持する上で重要な役割があると解釈できる。
横隔膜のフェイズを区分できたということも重要である。
本研究では、MR画像上で、横隔膜の呼吸機能と姿勢維持機能を見出すことができた。
本研究結果では、腰痛被験者の筋協調性の悪化が検出された。
脊柱異常と腰痛との関連は多くの先行研究により確認されているが、最も重要なことは、今後、腰痛患者の深部筋異常を調べることで、更なる腰痛機序の解明につながるであろう。
本研究結果は、我々の腰痛を持つ患者と持たない患者の呼吸及び姿勢筋の運動調節の相違を基とした臨床経験を支持するものである。
臨床経験では運動調節機能の相違が示されている。姿位による横隔膜運動は椎骨起因性の異常の予測あるいは治療の一
助となるであろう。
この提言を証明するためには、今後更なる被験者群に対する研究が必要である。
完