今回紹介する論文は、チェコのプラハ大学人工頭脳工学分野の研究グループによるものであり、我々カイロプラクターが多く対処している慢性腰痛患者の横隔膜機能に関する研究内容である。
中では、横隔膜の呼吸運動のみならず、姿勢安定機能に関する内容も報告されており、我々にとっても大変興味深いものではないかと思われる。
ABSTRACT
本研究は、MRIを用いて横隔膜機能の位置解析を実施したも
のであり、主な目的は、身体の姿位による横隔膜の運動、形状の
変化を評価することである。
16人の健常被験者と17人の脊柱の構造的異常を伴う慢性腰痛(LBP)を持つ被験者との比較を行った。
MRI記録から2セットのパラメータが算出された(横隔膜活動の動態パラメータ及び解剖学的な静態パラメータ)。
統計解析により、コントロール群被験者の横隔膜のスローな運動、
より大きさサイズ、より良いバランスが観察された。
下肢に負荷をかけると、殆どの腰痛被験者は、呼吸時の横隔膜機能を維持することができなかった。
コントロール群では両パラメータともに安定していた。
本研究結果では、腰痛被験者群のより悪い筋強調性が示された。脊柱異常と腰痛との明瞭な関連は未だ決定できないが、多くの文献によりその関連は示唆されている。
今後、深部筋の補正に関する機序解明が望まれる。
INTRODUCTION
横隔膜及び深部姿勢安定筋は、動態脊柱安定のための重要な
機能ユニットである。
横隔膜は体幹可動時の腹圧の変化時の腰椎部安定に機能する。横隔膜の安定機能を維持させるためには下位肋骨が呼気時の状態(下がっている状態)でなければならない。
呼吸サイクルにおいて下位肋骨はこの呼気時の状態に位置していなければならず、吸気時には側方へ拡張するだけであり、この呼吸時の下位肋骨の運動が脊柱を安定させる要因の一つである。
これらの状況下で呼吸時の横隔膜の運動は円滑に行われ、腹圧を維持している。
横隔膜、腹筋群、骨盤底筋群、腰背部深部筋群の協調異常は、
椎骨起因性疾患や椎間板ヘルニア、脊椎症、脊椎関節症など構
造的脊椎異常の主な原因である。
横隔膜機能のコントロールは、肺臓学、呼吸器外科、リハビリテーション、消化器病態学など多領域において重要な項目である。
しかし、腰椎安定システムにおける横隔膜活動を調べた研究は存在しない。従来行われている研究目的は呼吸時の横隔膜機能を調べるものであり、姿勢機能に着目した研究は稀である。
姿勢安定化に関する横隔膜活動の研究では、Hodgeらによる上肢可動時の筋電図計測を用いた報告が存在する。
その他、呼吸タイプによる横隔膜活動や呼吸を停止した状態での評価した研究も存在するが、全て健常被験者でのもので、呼吸器疾患や脊椎起因性疾患を有する被験者の評価ではない。
Relation of structural spine findings and LBP
腰痛の原因と脊柱異常との関連はいくつかの研究課題となっており、現在もそれは継続している。
Harrisらの椎間板研究、JensenらのMRIを用いた構造変化と腰痛との関係を調べた報告(被験者123人)など存在するが、JensenらとCarrageeら(被験者200人)はMRI上での構造異常と腰痛との直接的関係はないと報告している。
呼吸器疾患は他の要因より確かな腰痛の前兆であるとの報告があるが、呼吸機能と姿勢機能との関連は一般的に軽視されている。
姿勢安定筋群の協調性は複雑であり、この協調における横隔膜の役割はいまだ研究されていない。
本研究では、MRIを用いて横隔膜の呼吸外機能を報告する。
メインゴールとして、横隔膜の姿勢安定における作用を評価する。
被験者は健常者群と1年以上の慢性腰痛、脊柱構造的異常を有
する被験者群で実施した。我々の知るところでは、病理的要因を有するケースでの横隔膜姿勢機能を調べる研究は存在しない。
我々は、下肢に負荷をかけた状態でのtidal breathingと通常呼吸時の横隔膜の反応及び動きを観察した。
その中で、呼吸時及び姿位変化による横隔膜の動きの調和性、頻度、可動域を評価した。(tidal breathing=Cheyne-Strokes respiration: 比較的規則的に浅呼吸から深呼吸となり再度浅呼吸となって無呼吸気に移行する周期性呼吸)
その他、横隔膜の傾斜、高さ、腹腔内の位置についても評価した。
それらパラメータの健常群と異常群との相違の統計検定を実施した。
本研究結果は姿勢安定システムにおける横隔膜機能の一助となるであろう。
つづく