退職でトラブルに ならないために第21回 (2)
たや社会保険労務士事務所 田谷 智広
■ 解雇は「しない」、「された」と思わせない
最初に申し上げておきたいことは、解雇は本当 に最終手段であって、できればやらないのが一番 です。どうしても解雇せざるを得ない場合でも、 慎重に判断し、適切な手続のもとに行わなければ なりません。さて、解雇については、①会社がはっ きりと解雇を言い渡した場合と、②はっきりとは 言っていないが、解雇と思わせる言動があったこ とで従業員がそう思い込んでいる場合があります。 まず①の場合は、解雇の理由に納得いかないと、 トラブルになります。解雇を言い渡す際には、従 業員が「解雇されても仕方ない」と思うだけの根拠を用意しておかないといけません。具体的には、 解雇理由の明示された就業規則(あるいはそれに 準ずる規程)が予め示されていることや、解雇事由に相当する事実があったことがわる、始末書 や顛末書などの資料です。
つぎに②の場合は、「このままでは、もう辞め てもらうしかないだろう」とか「明日から君に任 せるわけにはいかない」とか、解雇を連想させるような発言から、従業員に「解雇されたと」思わせてしまうことがあります。このような場合、す べてが口頭で進んでいることが多く、「言った、言わない」というところからはじまるので、案外 解決が難しい問題となります。 まず、解雇というのは軽々しく口にしないということが重要です。どうしても何か言いたかった ら、「しかるべき措置をとる」など、その場は間接的な表現にすべきです。そして、その後改めて 解雇が必要か冷静に考えた上で、やむを得ない場 合は書面で通知します。解雇は本当に最後の手段 ですから、できれば回避することを最初に考えます。一旦間を置くことで冷静さを取り戻せば、「解 雇はいきすぎだった」と思うかもしれません。 また、話し合いの中で、従業員から辞めるという発言があった場合には、その場で退職届を書いてもらいましょう。メモ紙でも、レシートの裏で も、何でもか構わないので、何日付で退職するということをはっきり書いてもらいましょう。
■ 急に来なくなった
従業員が急に来なくなったという相談も増えて います。なぜ来なくなったかというところは様々 ですが、たとえば「上司のパワハラでうつ病になっ たので仕事に行けません」というようなケースは 退職トラブルにつながりやすいです。
これも、最初に述べたような「うっぷん」に近 いものがありますが、うつ病にかかるような場合 は、その従業員に前兆があるものです。その前兆 に早く気づけば問題も回避できるでしょう。ただし、普段から従業員のことをよく見て、従業員のことをよく知らないと、前兆に気がつくことができません。「今日はちょっとおかしいな?」という 「ちょっと」の違いがわかるように、普段からの良 好なコミュニケーションをとっておくことは大変 重要です。
では、残念ながらうつ病になってしまって仕事に来られないとなった場合でも、即解雇の理由にはなりませんので、軽々に解雇を口にしてはいけません。このようなケースを想定した場合、休職制度を作っておくことが有効です。休職制度があ れば、これにより一定期間治療に専念してもらい、その間に治らない場合は自然退職してもらうことが可能になります。また、最近はこのような心の病気でも労災認定されるケースが増えています。労災認定された場合、うつ病が治癒するまでと治癒してから30日経過するまでは、法律上解雇できないことになっています。しかし、本人に退職の意思があるかどうかの確認はできますので、まずは本人と話し合いをもつことが重要です。