今回は、前回に引き続き宇宙医学の分野から、筋肉を例にとって身体を動かすことの重要性を考えていきたいと思います。
「まるで鶏の脚ではないか」
地上で重力に対応する筋肉群は、無重力の中では重さを支える必要がないので、働かなくなっていきます。
重力がなければすぐに衰え始めます。
同じことは、地上で長期間脚を使わなくなった場合にも言えます。
つまり体重を支えないということは、筋肉に休暇を与えているようなもので、決して良いことではありません。
すぐに筋肉は痩せ細り、筋力や筋持久力までも衰えていきます。
最も強い影響を受けるのが下肢の筋肉で、次に腰筋群、背筋群、頚部の筋群が弱くなっていきます。筋肉には、大別して「伸筋」と「屈筋」があり、この場合、抗重力筋の伸筋群がかなり強い影響を受けていることがわかりました。
例えば、上腕二頭筋のような屈筋は、宇宙空間でも物を引きつけたり、何かの引き出しを開けたりする時などには使われます。
引き出しなどは、宇宙空間でも物体と物体の間の摩擦によって抵抗が生まれるので運動量は維持され、筋力および筋量の低下は少なくてすみます。
ましてや、宇宙飛行士の船外活動などでは1/3気圧に調整された宇宙服の中で、パンパンに膨らんだ手袋をかえして物をつかまなければならないので、上腕二頭筋や前腕の屈筋は地上にいるときよりも過酷な環境で活動していることになります。
それとは逆に、拮抗筋の上腕三頭筋は、物をその位置に保持したり押したりする筋肉ですから、重さを感じない無重力空間では筋力低下が進むことになります。
地上の環境に置き換えて考えても、荷物の持ち上げ、子供を抱きかかえるなどの日常よくみられる動作は、吊り上げていたり腕の屈筋を使って持つなどしますから、厳密には伸筋群が主体になる動作ではありません。
筋力は衰え加齢と共に細胞の含水率は下がりますので、境界膜の張りも衰えあのタルタルの二の腕になっていきます。
つづく