(米)ライツウエストカイロ大学元講師 米国公認カイロドクター
学長 小倉毅D.C.
Discussion 考察
私は数年前に鍼治療による現象の大脳辺縁系との関連の可能性について示唆したが、この仮説は前述の画像研究結果により確認されたといえるであろう。
関与する部位としては、前帯状回、海馬、島、扁桃体、側坐核などがあげられる。
時々鍼治療の際、特に過剰反応者でみられる感情の高揚状態は、健常者にプロカイン静注実験でみられる大脳辺縁系活動変化によるものと類似している。
Ketterらは、この感情高揚状態は左扁桃体の血流低下と関連すると報告した。また、幻覚、幻聴もプロカインによるものであると報告した。
Servan-SchreiberらのPET研究では、健常者におけるプロカインによる大脳辺縁系周囲活性化は、側頭葉てんかんの前兆でみられる感情的、身体的兆候と類似していると報告された。
これは2つの興味深い点が存在する。最初に、鍼治療を受ける患者は時折てんかん発作を起こすことがあるが、それは単に脳内酸素欠乏によるものではなく、大脳辺縁系への影響である可能性が考えられる。
第二に、特に側頭葉てんかんを持つ患者の鍼治療に対するより奇怪な反応もまた大脳辺縁系に起因するものであろう。このようなケースでは、鍼治療により辺縁系前部の活性化及び不活性化両方がおこることが考えられる。
大脳辺縁系、大脳辺縁系周囲、特に海馬は記憶の処理及び長期記憶形成には不可欠な部位である。Huiらの報告では、鍼治療時に海馬に顕著なシグナル減少がみられ、この変化は記憶形成への影響を示唆されている。
この記憶への影響は一時的なものであるということはすでに知られている。
患者の中には、鍼治療後に症状(疼痛)はまだ存在するが、不快感は減少しているというケースがある。この場合、疼痛受容よりも不快感に抗するための前帯状回の働きによるものと考えられる。
Wuらは、鍼治療の効果として疼痛による不快感の減少を報告している。
これらの研究結果によっても鍼治療の特異的な中枢神経系への影響は疑問視される。また、鍼治療とプラセボとの比較や催眠療法の臨床研究における仮説もまた同様である。さらに、他の手技療法家による逸話的な治療結果も鍼治療研究結果と類似するものと思われる。
従って、多くの物理的療法の効果は鍼治療と同様な脳活動変化によるものと考えられる。プラセボ反応について完全に解明はされてはいないが、脳画像研究により鍼治療と同様の脳部位の関与が示唆されている。
この仮説では、鍼治療は中枢神経系の反応に影響を及ぼすが、鍼治療特異的なものではない。また、鍼を刺す部位、方法には重要性はない。
これらのことから、近年の臨床研究におけるRealとShamとの影響の差を証明することの困難さが理解できる。
完