鶴ケ島 カイロプラクティックセンター[2012.4.18の続き]
院長 船戸孝俊B.S.C.
癌細胞の周辺にマクロファージが集まってきて、癌細胞の浸潤を誘導している映像を目の当たりにしたときは、かなりの衝撃を受けました。
癌細胞が悪性化する第一歩は浸潤作用です。癌細胞という全く種を異にする生き物による正常細胞社会に対する侵略のようなものです。
細胞は自分の所属組織に属して、周りの細胞と共同行動をとっている限り良性です。細胞分裂の過程でミスが起きて過形成を起こし、そこが膨れ上がってコブのようになり腫瘍を形成したとしても、基底膜に包まれた細胞集団として、まとまりのある一つの独立した領域を形成している限りは良性腫瘍です。
しかしその領域を破り基底膜を突き抜けて、周辺の細胞の領域にジワジワと入り込む、つまり、2つの組織の細胞が混在するようなことが起きたら、良性腫瘍から悪性腫瘍に変化したと判断します。
病理学者が顕微鏡を覗きながら注目しているのはそこの部分で、組織と組織の間の配列の乱れと、異細胞の侵入の有無すなわち浸潤の有無なのです。
つまり癌化か始まったかどうかを判断するポイントは、浸潤の有無が重要なのです。その浸潤の最初の一歩を免疫細胞の大物、マクロファージが助けていたのですからビックリな話です。
この事実を世に発表した、アルバート・アインシュタイン医科大学のジェフリー・ポラード教授は、マクロファージは死んだ細胞は食べるが、生きている癌細胞は食べないどころか、癌細胞の進行方向にある細胞を邪魔者としてどんどん呑み込んでしまうというのです。
ではこのマクロファージは、免疫細胞でありながら一種の裏切り行為をしているということなのでしょうか。
マクロファージの本来の役割の一つに、傷の修復があります。
例えば切り傷が出来たとします。すると傷の周りの細胞たちが、「救援を求める信号物質」「細胞の成長と移動を促す物質」「細胞を壊す物質」つまりサイトカインを放出して傷の修復を行います。
切り傷が治っていく過程で肉が盛り上がっていく現象である、肉芽を形成します。肉芽形成は、実質的に腫瘍形成と同じなのです。
マクロファージの働きとして知られているのが、異物をひたすら食べていく大食漢細胞としてですが、マクロファージにはもうひとつ重要な役割があります。創傷を修復するときの現場監督としての役割です。
次回に続く